本当にオリジナルのアイデアというものは存在するのか?

北朝鮮 テポドン 憲法九条 ジョンイル


前エントリーに対して新聞広告.comからたくさん来ていただいたのにいきなり電動こけしの話で申し訳なく。今回は電動こけしに毛が生えたくらいまあまあマジメです。


ほかのブログさんの「天才になれる秘密」というのを面白く読みました。要は「ニュートンアインシュタインのような天才達も先人のアイデアをパクって偉業を成したのだ。だから、パクって自分なりにどうアレンジするかが大切で、パクリに罪悪感のない人のほうが天才になれる可能性が高くなる」というような内容。


パクリ論争については、2ちゃんねるでのパクリアーティスト叩きなどにみられるようにネット世論では否定論者が優勢になる傾向がありますが、この「天才になれる秘密」のコメント欄では比較的肯定論が多くて意外でした。ブログを書いた人が文章力のある人だからみんなが説得されたのかも。


とはいえ、「多くの天才も所詮他人のアイデアを換骨奪胎(かんこつだったい)してるにすぎない」というのは極論だとしても「多くの新しいアイデアは既存のアイデアの組み合わにすぎない」というよくある意見に自分もとりあえず賛成です。それから、「たとえ人のアイデアをパクったとしても、そこには必然的にその人なりの新しい要素が加わる。それが個性というもので、その新しい要素が増えて原型をとどめなくなった時点でパクリはパクリでなくオリジナルになる」というよくある意見にも賛成です。


その「パクったのに結果としてオリジナルに化ける」様子の説明を偶然ほかのサイトで見つけました。仕事の調べ物をしてただけなのに、どうしてそのサイトとめぐり合えたか自分でも不思議ですが、必要なものが向こうから集まって来ることってよく起こりませんか?自分は起こります。とにかく、作家の高橋源一郎さんの講演会から抜粋です。

これに味をしめて今度は大学で同じように授業しました。小学生と大学生は暇でいいんですが,中・高は難しいでしょうね。忙しいから。ボクは慶応大学の文学部でたぶん「文学1」というような味も素っ気もないタイトルの授業で,小説を書くという目的を悟られないように小説を書かせるという画期的な授業をやりました。


小説を書くという目的ではみんな構えてしまうし,そもそもそういう目的で授業を受けに来ていない。そこで気づかぬうちに小説を書かせるにはどうしたらいいか,いろいろ考えました。


一つは翻訳です。 正確には翻案。近代文学の古典を読み,日本語から日本語へ翻訳してもらいました。ただし時間も現代に動かすことで翻案です。第一回は「舞姫」を翻訳してくれといいました。そうすると 8割はただの現代語訳。2割くらいの鋭い人はドイツに行くのが飛行機だったり,舞姫がドイツのエロチックダンサーになっています。それでいいです。つまり鴎外が現代に生きていたらどう書くかという試行実験です。


次に「坊ちゃん」です。半分くらいの人はどうしていいかわからない。一方で15%から2割が予想を超えて進化していくんです。面白かったのが樋口一葉の「にごりえ」です。非常に典雅な古典文学で設定が明治10~20年代の色町の話ですからこれをどういうふうに処理するのかと思ったら,面白いんですが,3〜4割の主人公がキャバクラなんです。しかも10人くらいは滅茶苦茶描写が細かい。明らかに当人がやってる?みたいなんです。


原作の冒頭は 2人の娼婦が語り合うシーンです。この会話部分がオカマのホステスが性転換について語るように翻案しているんです。 フェミニズムの観点が付加され思想的進化を遂げています。


田山花袋の「蒲団」は 大学教授と女子大生の話ですが,ほとんど原型が見えないほど変化させる奴がいるんです。書いた学生を呼んで質問したら,あの二人の関係をつきつめるとこうなるんだと説明してくれるんですが,これは「蒲団」がSFになって宇宙人がでてくるので,どこがどうなっているのかわからないんです。しかし話の構造は保たれているんです。ここまででほぼ最終段階なんですが,何人かの学生の作品は,オリジナルが何かを言わないとわからない,あるいは言ってもわからない。つまりオリジナルになっているんです。


受講生は400人くらいが最後は150人になりましたが,そのうち3人から5人は小説の新人賞に確実に受かります。ただし当人はその気が全くありません。つまり,一方で小説というものへの通俗的理解があります。だけど自分は関係ないなという一方で,高い読み書き能力(リテラシー)が備えられているわけです。


ある程度以上のセンスとリテラシーを持っていれば,ある程度の小説は書ける。惜しむらくは,それが小説能力であることを本人が知らない。さきほどの小学生もそうでしたし,今の大学生もそうでした。この慶応の授業でも小説家志望の学生はダメ。これが,文学・文学史・小説への誤解です。


なかなか見えませんが,小説を書く能力があるのに書かない子,しかも当人でさえも気がつかない。これを見つけるためには,何が小説を書く能力なのか,それは何に由来しているのか,どんな条件でその能力が開花するのかを本当に知らなくてはいけない。同じような授業を千葉大学でもやったんですが,我に優秀な生徒と時間を与えよ! そうすれば小説家は作れちゃうと思ったんです。


では実際にはなぜ行われていないのか,これはボクたちがいくつもの,幾重もの誤解に晒されているからに他ならない。誤解が常識となっている世界では,小学生でも小説が書けるということが受け入れられにくいと思っています。

面白すぎ。大塚英志さんも小説の書き方の一つとして似た方法(村上龍の小説の世界設定を元ネタに自分の弟子に小説を書かせて添削してました)を紹介してましたが、高橋さんのすごいところは生徒に説明せずにやったということと、古典を翻訳させることで自然と超訳される状況をつくったことなんでしょうね。いや、ほんとに面白い。この講演は他の部分も面白いのでよろしければどうぞ。


高橋源一郎講演会実録--作家の高橋源一郎さんが8月29日(金)に県立広島女子大学で,テーマ「作家の作り方」で講演を行いました。--


「模倣」と「オリジナル」について突き詰めていくと果てしなく難しくなっていくので、興味ある方はボードリヤールとかベンヤミンとか大塚英志さんとか東浩紀さんを読むと面白いかも。


パクリと言えば広告業界もパクリの宝庫ですが、昔は「コピーが上手くなりたかったらコピー年鑑のコピーを10年分、ぜんぶ原稿用紙に書き写せ」と言われて、実際にやってる人も多かった。それによってコピーとか企画のパターンをカラダで学習していったのだと思います。優秀になるか平凡で終わるかは、その学習成果を自分自身で咀嚼して「新しいアイデア」に見せられるか、そのまま引用して「パクリかよ!」と言われるかのセンスの差かもしれないです。






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5 よくぞ紹介してくれました
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