『小説の誕生』保坂和志

すぐに消える多くのあだ花的作家は別として、まともな作家はこれくらい深いことを考えているのだなと思わされるような本。こういうのを読むと作家志望の人は「ああ、自分には無理だ」と小説を書く気がなくなるのではないでしょうか。


前の方のページで佐藤雅彦さんについて書いてあったので立ち読みしました。佐藤さんはアーティストかもしれないが芸術家ではない、と。それはアーティストを否定してるのではなくて、自分(保坂さん=芸術家)とは正反対の人だから気になる存在だ、と。


もともと広告(というかCM)というのは15秒で答えを出さないといけない宿命があるから、よくも悪くも答えがすぐに提示される。それとは逆に芸術というのは「これって、どういう意味?」とか「なんでこんなものつくったんだ?」と、考えさせられる時間があって、やっぱり人間は、あえて答えを保留されて考える時間を与えられたほうがいいんじゃないか、みたいなことが書いてあった。


でも答え(=商品のセールスポイントとか、誰のための商品かとか)がすぐに求められるのは日本の広告に多くて、外国の広告には最後まで答えを引っ張るものが多いはず。とは言っても長くても60秒、90秒後には答えが出るから、美術館を出てもしばらく尾を引く芸術作品に対する「?」の時間の長さとくらべたら一瞬のことなのかもしれません。


読んでないからわからないけど、橋本治さんの『「わからない」という方法』には、ひょっとしてそういうことが書かれているんでしょうか。


保坂さんのこういう本のような、あらすじというか構成というか、そういうこととはまったく関係なしに、文字を追うその瞬間瞬間に快楽があるような本がやっぱりいい。評論とか小説とか、ジャンルに関係なく。


ストーリーにハラハラ、ラストのどんでん返しにドキドキびっくりするために長い時間をかけて本を読むなら、初めからテレビのサスペンスドラマを見れば充分な気がする。



小説の誕生

小説の誕生




「わからない」という方法 (集英社新書)

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