『山手線内回り』柳美里、『うるさい日本の私』中島義道
『命』シリーズとかで大衆化してしまったので昔ほど柳美里さんの小説は読んでいませんが、冒頭からやっぱり只者じゃないなと思いました。(「何言ってんだ、ただのエロ小説じゃんかよ」と言ってはいけません。純文学の作家がどうしてこういう表現方法を選んだのかということに意味がある)
女は便器に腰をおろすと、タイトスカートを臍の上までまくりあげ、パンツをふとももまでずりおろした。緊張が内に籠っているようなおまんこを右手におさめ、右手の上に左手を重ね、最初はそっと、徐々にこねるように、そしてなか指をクリトリスに押しつけて左右に強く――、快感がせり出し、おまんこがじんわりと熱くなってくる。おまんこっていってみな、いわないとちんちんしゃぶらせてやんないよ、とかいうヤツがけっこういたけど、ザーッツ・オーライ! 何度だっていってやる。おまんこ、おまんこ、おまんこ、おまんこ、おまんこ、おまんこ、おまんこ、おまんこ、おまんこおまんこおまんこおまんこおまんこおまんこおまんこおまんこ、歯を立てて根もとから食い千切ってやる! ごっくん、ちんちんはのどちんこをするっと抜けて、勃起したままのたうつように食道の奥へとすべり落ちて……おまんこ! フラッシュを焚いたようにぱっと飛び散った光が急速に萎えて真っ暗……かぶと虫の終齢幼虫の死骸みたいに黒ずんでぶよぶよになったちんちんがフラッシュバックして……吸ってぇ、すぅ、吐いてぇ、はぁ、吸ってぇ、すぅ、吐いてぇ、はぁ、痺れた脳に酸素が戻ってくる。
背中を丸めて股間を覗いてみると、おまんこはぐちょぐちょ。もっとからだが柔らかかったら、擦り剥いて赤チンを塗った膝をふうふうやるみたいに、濡れたおまんこをふうふう乾かしてあげられるのに……女はゆらりと立ちあがった。センサーが作動して水が流れた。ねばついている指をグーにして〈開〉の青ボタンをパぁンチ!
女は東京駅4番線山手線内回りの階段をあがった。腕時計を見ると十二時四十分三十八秒。タイトスカートだから一段抜かしではあがれない、足の回転を速めて、いっちに、いっちに、いっちに、いっちに、叩く夏、舞う夏、担ぐ夏、跳ねる夏、踊る夏、魅せる夏、JRのポスターだ、あと四段っ、いっち、にっ、さんっ、しっ! 京浜東北線快速大船行が通り過ぎていった、ゴォー……。
ホームにはカレーのにおいが立ちこめているし、パンツのなかにはおまんこのにおいが立ちこめている。女はくっくっくっと声を出したが、別に笑ったわけじゃないんです、笑いなんてとっくに底をついています、笑いが毎日湧き出していたのが嘘みたいです、かつて笑いがあった場所にはどっしりと沈黙が腰をおろしています、くっくっくっくっ、体脂肪率35%の中年女みたいにどっしり、くっくっくっくっ、ぜぇんぜんおかしくなぁい。
「ただいま3番線京浜東北線大宮方面行きは人身事故のため停まっています。上野方面のお客さま、上野方面ご利用のお客さまは4番線山手線をご利用ください。えぇ復旧のメドは立っておりません。従いまして、上野方面、4番線山手線をご利用ください。たいへんご迷惑おかけしております」
ピポポポ、ポ〜ン。
「まもなく5番線に品川・渋谷方面行きがまいります。危ないですから黄色い線の内側までお下がりください」
線路の向こうの5番線ホームに黄緑ラインの山手線外回りが入ってきた。
「5番線、ドアーが閉まります。ご注意ください閉まります」
ミレシソ、ソシレミレシソファレシラ、ファソファソファレシ……。
この発メロあんまり好きじゃない、このあいだ、っていってもけっこう前だけど、中央線の発メロが自殺の引き金になってるんじゃないかって、明るいメロディーに変えたらしいけど、中央線の古いメロディーってどんなんだっけ?
中島義道さんが『うるさい日本の私』で言いたかったことを小説にすると、この柳美里さんの『山手線内回り』になるし、柳美里さんがこの小説で言いたかったことを評論で書くと中島さんの『うるさい日本の私』になるような、そんな重なる部分があるような関係性を感じました。
安倍さん、安倍首相が電撃的に辞任しましたが、ぜんぜん関係ないことを書いてみました。
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